カテゴリ:美術教育の現場実践( 4 )
「影で描こう私の世界」―フォトグラムで表わす題材事例―(第52回関東甲信越静地区造形教育研究大会in埼玉)
 去る2012年11月8日(木)、9日(金)に埼玉県所沢市にて「第52回関東甲信越静地区造形教育研究大会」が開催されました。

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私は2日目の9日、第五分科会「映像メディア表現との出会い」で提案をさせていただきました。

以下にその発表内容の概要を記します。

(内容は、8月に「日本教育美術連盟第55回夏期研究会」で発表させてもらったものを更新したものとなり、重複する点が多くあります事をご了承ください。)

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「影で描こう!私の世界」
―身の周りのものの形や素材感に注目し、光を造形素材として発想を広げ表現する―


1:「はじめに」では、現在の情報化社会の進展に伴う、生徒の映像メディアの取り扱いの環境、学校現場でなぜ映像メディアの題材を扱う必要があるのかを具体的に説明した。

2:「授業の実際」では、7時間の授業の中で生徒がどのように発想を広げ、制作を行い、「題材で育てたい力」に迫ったかを紹介した。

3:「まとめ―課題と展望―」では、授業を行う上で見えてきた課題点と、更なる発展について考えを述べた。



1:「はじめに」

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私の日頃現場で感じている切実な思いを発表した。
「3年間の美術の時間は、115時数(5750分)と充分な授業時数が無い。
その中で生徒達が主体的に発想を広げ、自分の思いや考えを表現出来る授業をつくりたい。」と日々模索している。
(この考えを行動にうつしたアクション5750分展の取組みもご参照ください。)

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今回の授業の領域は以下の通りである。

A表現
   (1)感じ取ったことや考えたことなどを基にした発想や構想
   (3)発想や構想をしたことなどを基に表現する技能
   B鑑賞
   (1)美術作品などのよさや美しさを感じ取り味わう鑑賞


その中で様々な題材開発を試みたところ

「この感光紙によるフォトグラムの授業を通して、生徒の発想や構想を広げ、それを基に表現出来る充実した授業ができるのではないか?」と考えた。

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その中でこの題材で育てたい力を以上の様に設定した。

 次に今日的な映像メディアの状況と子どもの環境について話をした。

 今日、情報化社会の進展により、デジタルカメラやカメラ付の携帯電話、携帯ゲーム機などの普及が進み、誰もが気軽に写真を撮れる環境になっている。一方、飛躍的に写真を用いた表現が多様化する中、映像を処理したり、読み解いたり、活用するリテラシー能力も必要となっている。またそれはこれからの社会を生きる上での知識技能の一つとして捉える必要もあると考える。

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(現在は、写真や映像に囲まれ、それらを目にしない日は無いほどである。さらに、携帯電話の写真共有アプリケーション等のユーザーも拡大し、世界中で写真がアップロードされている。)
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(生徒の中には携帯電話はもちろん、携帯ゲーム機を使って写真を撮影し加工したり、絵を描き、それを繋げていくことで動画にし、インターネット上で作品を発表している。)

そのような中で、学校現場で映像メディアを学ぶことにどのような意味があるのだろうか?

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学習指導要領の映像メディアに関する記述である。

 平成24年度から全面実施される中学校学習指導要領の「第2章・第6節・美術 第3:指導計画の作成と内容の取扱い」では、「美術の表現の可能性を広げるために、写真・ビデオ・コンピューター等の映像メディアの積極的な活用を図るようにすること。」と記述されている。

「表現の可能性を広げる為に」今回、感光紙によるフォトグラムの制作を試みた。

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写真は、自分のイメージや伝えたいことを、5つの特性により、スムーズかつダイレクトに相手に伝える事が出来る面がある。

その自分のイメージや伝えたいことのアイデアを練ったり編集したり、画面の構図や構成を取捨選択、誇張したり、光の量などを意図的に操作したり、見せ方を工夫することで、自分のイメージや伝えたいことを整理し、効果的に相手に伝える事が出来る。

また、冒頭でも述べたように、写真が身のまわりに溢れている中、その写真の伝えたいことを読み解き、活用する力が必要になっている。

 しかし、新学習指導要領の下、多くの現場で写真を題材にした授業実践が行われる中、機材や設備の問題から写真を題材にした授業が出来ないといった声も少なくない。また、行っていても機材に振り回されてしまい、映像にすることで自分のイメージや伝えたいことを深められないこともある。

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 私が今回提案させていただく感光紙を用いた授業実践は、生徒の発想や構想を広げ、それを基に表現出来る充実した授業を目指して実践した一事例である。


2:「授業の実際」

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 本題材は、生活の中、身の回りの環境にある自然物や人工物の形に着目し、身の回りにある素材を集め、その形と形を組み合わせて影(画面)を構成し、感光紙を用いて、光を操作し撮影し、フォトグラムで表わす題材である。

 制作には、特別な機材も材料も、暗室などの特別な設備、カメラさえも必要としない。映像機材に振り回されることなく、光を表現の素材として捉え操作し、露光時間による明暗を工夫し、身近なものの形(影)を探していくプロセスは、映像表現の基礎となる学習である。以下に挙げる感光紙の特性を生かし、生徒の映像表現の資質・能力を目指す。


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1時間目:導入、コピアート・フォトグラムについて説明、制作方法のガイダンス

1時間目の導入は、7時間の授業構成を説明した後、写真の歴史の概要を説明する。

その歴史の中で、写真の概念を拡大させた「フォトグラム」というカメラを使わない写真の技法を扱うことを伝え、モホイナジやマンレイ、瑛九等の作家の作品を鑑賞し、授業で扱う感光紙の説明を行う。

感光紙(コピアート)の特性は以下の3つがある。

(1)感度が低い。(コピアートは一般的なフィルムや印画紙に比べて感度が低い。)
・露光時間が目で見え、明暗を調節することが出来る。
・遮光板を用い、野外でも制作することが出来る。
・暗室など特別な設備や環境を必要とせず、制作が可能。

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(2)現像はアイロンの熱で行う。(現像液などの薬品は不要。)

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(3)安価である。(A4サイズ250枚で2500円程度)
・失敗を恐れずに試行錯誤をする環境をつくることができる。

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実際に一枚制作してみる(ここでは筆箱の中のものや持っているものを素材とする)

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撮影した素材を影の上に置くことで、どんなものがどのように写ったか確認できる。
グループで行うことで、その情報を共有すると次の時間の意欲につながる。

1時間目の終わりに、次回、影が面白そうな素材を持参するように伝える。




2時間目:コピアートに慣れよう!エクササイズ ①『影撮kagetori』

2時間目の主なねらいは、素材によって写る影が異なることや、影を組み合わせることによってできる印象の面白さ等を学ぶことである。

また、感光紙に光をあてて露光しているその時間こそが映像の精製の時間である認識を伝える。

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1時間目の終わりに影が面白そうな素材を持参することを生徒に伝えたことで、生徒は沢山の素材を持参するが、人工物が多い傾向がある。そこで、校庭に行き、自然物の素材を中心に集める。素材の選択の幅が増えることで、発想が広がる。

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教室に戻り、OHPを使い簡単な影当てクイズを行う。

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写す角度で印象が異なること、透明な素材、金属の素材、影の重ね方等の写り方を確認する。

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生徒の記録ノートから
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3時間目:コピアートに慣れよう!エクササイズ②『風撮kazetori』

3時間目の主なねらいは、教室内での光と、外の光の強さの違いによって得られる効果を学ぶこと。
普段はじっくり見ることが少ない野外の影を観察すること。
私は、露光オーバーの失敗も多いが、身体で光のコントロールを経験してほしいと考えている。

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3時間の授業を終え、次から3時間を使い、いよいよ「私の世界」の制作に入る事を伝える。

アイデアシートを配布し、作品のアイデアを練ることを宿題とした。


4時間目~6時間目「影で描こう私の世界」制作(3時間)

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生徒自身が主体的に制作が出来る環境をつくるために以下の工夫をした。

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①自己評価シート、アイデアシート、フォトグラムデータシートの活用

自己評価シートは、1時間の生徒の活動を把握するために用いる。
上手く制作が出来ない生徒に次の時間に声をかけるのにも一役買う。

アイデアシートは、自分が制作する「私の世界」をどう制作していくかを確認するために用いる。
主題を明確にするためどのような世界を制作したいか、まずは言葉で書き出して自ら認識する。

フォトグラムデータシートは、撮影した場所と、撮影時間、光の量(天気等)などのデータをメモし、自分の作品に適切な露光を出来るために用いる。

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②生徒の学習環境を動線を意識し入念に考える。

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素材置き場、スポットライト・蛍光灯などで意図的に光をつくりだせるライトスペースは生徒が集まりやすいので広いスペースをとる。

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OHPで随時、素材の写り方、撮影する画面の構成を確認できるようにした。素材の影をすぐに確認できる為、見通しを持った制作に一役買う。

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現像はアイロン2台で行う。現像した後、作品を床に置き、リアルタイムに生徒間の作品が見られるようにする鑑賞スペースを設けた。また現像待ちの待ち時間にも友人の作品を鑑賞する事が出来るよう考えている。


 生徒の作品例

Aさんの作品制作
―素材の形を生かし見立てを工夫して自分の好きな動物の世界を制作した―

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Bさんの作品制作
―スポットライトで意図的に光を操作し、情感のある色合いを工夫した世界観を制作した―

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Cさんの作品制作
―光の効果や背景のぼかし等を工夫し、自分の夢の世界を制作した―

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アイデアシートには自分の夢が書かれていて、この夢を作品で叶えてみたいという。

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自分の習っているダンススクールで行ったパフォーマンスの連続写真を持参した。

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好きなポーズをどれにしようか考え、切り抜いた。

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お気に入りのポーズを切り出し、スポットライトが当たっているステージをイメージし光を工夫した。

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動きを出すためにブレを意図的につくり出した。
背景に使うビルなどの素材も切り出している。

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5時間目は、4時間目の制作を更に発展させ、動きの違う二つのポーズを同時に画面に入れることを思いついた。背景も4時間目のもとよりも工夫がみられる。

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時間差で2つめのポーズを入れることで、残像感が出た。

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けれどこの時間で背景が気になった。
「ストリートで踊る事はとても解放感があるのに、この作品では解放感があまり感じられない。奥行き感が出れば解放感を感じられるのに…どうしたらいいだろう??」

Cさんはこの場面で、時間差でモチーフをブラす事で残像表現が出来る事、スポットライトを用いた光の効果を意図的に用いて工夫して制作をしている。

そしていよいよ制作の最後の6時間目。

友人がたまたまOHPで影を写していていたら発見した技法
(OHPの上層と下層に素材を置くことで意図的にボケの効果を生み出すことが出来る)
を取り入れて、背景をぼかした遠近感のある像をつくり出すことができた。

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学習環境を整えておくことで生徒自ら実験精神を持って制作に取り組む環境が出来た。
また、生徒間で思いがけない表現を発見するとそれを伝え合い、応用して自分の作品に取り込んでいく姿も多くみられた。


b>7時間目:作品鑑賞会

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1人1人作品を紹介し、アイデアの生まれ方や作品に込めた工夫点を発表し合った。

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3:「まとめ―課題と展望―」

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関連資料
『美育文化2007.7vol.57』(財団法人 美育文化協会出版) 「影で描こう私の世界」
『教育美術2011.3月号』に「影で描こう私の世界」―コピアートペーパーを用いた写真表現の授業実践(中学3年生)掲載
●「美術の表現の可能性を広げる題材事例」『埼玉県中学校教育課程指導実践事例集』


 この題材は、多くの生徒が抵抗感なく作品制作に取り組める反面、自分の主題を持って表現を深めていくには、多くの失敗とそれによる思考錯誤、沢山の作品の鑑賞が不可欠であると考える。

また、生徒にとっては驚きの場面が多数あり、その驚きやわくわくが作品制作の初動のモチベーションとなる。

光を当てると感光紙に変化がある事、自分の持っている者の影の写りかたが様々異なる事、アイロンで現像すると色が変わり、像が浮き出てくる事。

こうした現象の不思議さの驚きやわくわくをとても大切に授業をしたいと常に考えている。またそのモチベーションが継続し、生徒自身から生み出されるものになることが理想であると思う。

その為、学習環境を充分に整え、生徒間の工夫の共有が出来る環境をつくった。

特に、Cさんは作品の中で、自分の夢であるダンサーになってNYのストリートで自分のパフォーマンスを展開している。

制作の流れの中で、写真の切り抜き、ブレ、光の角度、背景、ぼかしなど段階を追った画面の工夫を自ら考え、自分の主題の実現に一時間一時間迫っていった。

友人から教えて貰ったOHPを用いるとまるでレンズを使って撮影されたかのような画面が出来て、野外の解放感が出た時のCさんの表情はとても印象的だった。

写真作品は、「簡単に制作されたものではないか?」と見られることがしばしばあるが、生徒の発想の段階を注意深くみることで、生徒が作品に沢山の思いを込めようとし、工夫している事がみえてくると私は考えている。

また制作過程において、段階を追って制作した作品が残る点も、指導者には生徒の制作をじっくり検証する手掛かりにもなる。作品を読み解く為、指導者側にも素材や制作過程の十分な経験が必要となると私は考えている。

今回の発表で、数多くの実践が現場で行われ、映像メディアを活用して、生徒の表現の可能性が深まっていく事例が沢山生まれる事を切に願います。

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(発表の中で配布した感光紙を現像する先生方、表情が生徒の驚きの表情と似ています(笑))

 最後になりましたが、今回の発表をするにあたり、助言者の関根先生、司会者の石川先生、記録者の矢島先生をはじめ、多くの先生方から多大なるご指導をいただきました。深く御礼申し上げます。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


埼玉県美術教育連盟編集・発行の会報誌「美連」に実践のレポートが掲載されました。
(追記2013年3月19日)

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レポートにもあるように質疑応答の時間では、題材発見のプロセスを質問される場面があった。

「題材にとてつもない時間と工夫が感じられるが、どのようにしてこの題材を見出されたのか?」

といったものだ。

その質問に対して私は、「時間や季節によって変化する障子に写る影を小さい頃から美しいと感じていて、眺めている時間があった。いつからかその時間を表現したい(つかまえたい)と思った。子ども達にも、光や時間によって変化するものの美しさを感じてほしいと考えた。」と答えた。

題材発見のルーツとなった障子の写真

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朝から夕方、夜は街頭の明かりによって見え方が変化する。

この質問を受け、題材発見のルーツが、自らの美しさの実感や体験からスタートしていることを改めて発見すると共に、その実感や体験が、生徒と共有できる美術科の教科性を改めて確認することが出来た。





 この実践は以下の文献を参考にしています。


・『絵画・写真・映画』 L・モホリ=ナギ(L.Moholy-Nagy) 利光功訳 
 バウハウス叢書[中央公論美術出版] 1993年
・『視覚の実験室 モホイ=ナジ/インモーション』 井口 壽乃監修 2011年
・『バウハウス 芸術教育の革命と実験』 川崎市民ミュージアム 1994年
・『コロキウム バウハウスの写真』 川崎市民ミュージアム 1997年
・『バウハウス50年』 東京国立近代美術館 1971年




以下の関連リンクでは、これまでの感光紙を用いた活動のレポート等を掲載しています。
ご参照下さい。

More
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by shunya-asami | 2012-11-13 23:37 | 美術教育の現場実践 | Trackback | Comments(0)
「影で描こう私の世界」―生徒の発想力を伸ばす映像メディア表現の題材事例(日本教育美術連盟夏期研究会)
 去る、8月17日(金)、18日(土)「日本教育美術連盟第55回夏期研究会」が開催されました。

その中で、日頃行っている授業をまとめたものを「研究発表」させていただきました。

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今回の大会テーマは「『絵に表す』活動に広がりを求めて」、大阪教育大学付属天王寺中学校で行われました。

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 私の発表内容は
「影で描こう!私の世界」
―生徒の発想力を伸ばす映像メディア表現の題材事例―



A表現(1)感じ取ったことや考えたことなどを基にした発想や構想
    (3)発想や構想をしたことなどを基に表現する技能
B鑑賞(1)美術作品などのよさや美しさを感じ取り味わう鑑賞



以下は、当日の主な発表内容を再構成し紹介するものです。


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発表の内容は3つの構成で行った。

1:「はじめに」では、現在の情報化社会の進展に伴う、生徒の映像メディアの取り扱いの環境、学校現場でなぜ映像メディアの題材を扱う必要があるのかを具体的に説明した。

2:「コピアートによるフォトグラム授業実践」では、7時間の授業の中で生徒がどのように発想を広げ、制作を行い、「題材で育てたい力」に迫ったかを紹介した。

3:「まとめ―課題と展望―」では、授業を行う上で見えてきた課題点と、更なる発展について考えを述べた。


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1:はじめに
 今日、情報化社会の進展により、デジタルカメラやカメラ付の携帯電話、携帯ゲーム機などの普及が進み、誰もが気軽に写真を撮れる環境になっている。一方、飛躍的に写真を用いた表現が多様化する中、映像を処理したり、読み解いたり、活用するリテラシー能力も必要となっている。またそれはこれからの社会を生きる上での知識技能の一つとして捉える必要もあると考える。


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(現在は、写真や映像に囲まれ、それらを目にしない日は無いほどである。さらに、携帯電話の写真共有アプリケーション等のユーザーも拡大し、世界中で写真がアップロードされている。)
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(生徒の中には携帯電話はもちろん、携帯ゲーム機を使って写真を撮影し加工したり、絵を描き、それを繋げていくことで動画にし、インターネット上で作品を発表している。)

そのような中で、学校現場で映像メディアを学ぶことにどのような意味があるのだろうか?

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 平成24年度から全面実施される中学校学習指導要領の「第2章・第6節・美術 第3:指導計画の作成と内容の取扱い」では、「美術の表現の可能性を広げるために、写真・ビデオ・コンピューター等の映像メディアの積極的な活用を図るようにすること。」と記述されている。


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写真は、自分のイメージや伝えたいことを、5つの特性により、スムーズかつダイレクトに相手に伝える事が出来る面がある。

その自分のイメージや伝えたいことのアイデアを練ったり編集したり、画面の構図や構成を取捨選択、誇張したり、光の量などを意図的に操作したり、見せ方を工夫することで、自分のイメージや伝えたいことを整理し、効果的に相手に伝える事が出来る。

また、冒頭でも述べたように、写真が身のまわりに溢れている中、その写真の伝えたいことを読み解き、活用する力が必要になっている。

 しかし、新学習指導要領の下、多くの現場で写真を題材にした授業実践が行われる中、機材や設備の問題から写真を題材にした授業が出来ないといった声も少なくない。また、行っていても機材に振り回されてしまい、映像にすることで自分のイメージや伝えたいことを深められないこともある。

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 私が今回提案させていただく感光紙を用いた授業実践は、「学校現場で出来る充実した写真表現の授業をつくりたい」といった思いから生まれたものである。



2:「コピアートによるフォトグラム授業実践」について

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 本題材は、生活の中、身の回りの環境にある自然物や人工物の形に着目し、身の回りにある素材を集め、その形と形を組み合わせて影(画面)を構成し、感光紙を用いて、フォトグラムに表わす題材である。

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 制作には、特別な機材も材料も、暗室などの特別な設備、カメラさえも必要としない。映像機材に振り回されることなく、光を表現の素材として捉え操作し、露光時間による明暗を工夫し、身近なものの形(影)を探していくプロセスは、映像表現の基礎となる学習である。以下に挙げる感光紙の特性を生かし、生徒の映像表現の資質・能力を目指す。


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(コピアートの特性について口頭だけでは伝わりにくい為、参加者の方にコピアートを配布した)
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1時間目:導入、コピアート・フォトグラムについて説明、制作方法のガイダンス

1時間目の導入は、7時間の授業構成を説明した後、写真の歴史の概要を説明する。

その歴史の中で、写真の概念を拡大させた「フォトグラム」というカメラを使わない写真の技法を扱うことを伝え、モホイナジやマンレイ、瑛九等の作家の作品を鑑賞し、授業で扱う感光紙の説明を行う。

感光紙(コピアート)の特性は以下の3つがある。

(1)感度が低い。(コピアートは一般的なフィルムや印画紙に比べて感度が低い。)
・露光時間が目で見え、明暗を調節することが出来る。
・遮光板を用い、野外でも制作することが出来る。
・暗室など特別な設備や環境を必要とせず、制作が可能。

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(2)現像はアイロンの熱で行う。(現像液などの薬品は不要。)

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(3)安価である。(A4サイズ250枚で2500円程度)
・失敗を恐れずに試行錯誤をする環境をつくることができる。

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実際に一枚制作してみる(ここでは筆箱の中のものや持っているものを素材とする)

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撮影した素材を影の上に置くことで、どんなものがどのように写ったか確認できる。
グループで行うことで、その情報を共有すると次の時間の意欲につながる。

1時間目の終わりに、次回、影が面白そうな素材を持参するように伝える。




2時間目:コピアートに慣れよう!エクササイズ ①『影撮kagetori』

2時間目の主なねらいは、素材によって写る影が異なることや、影を組み合わせることによってできる印象の面白さ等を学ぶことである。

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1時間目の終わりに影が面白そうな素材を持参することを生徒に伝えたことで、生徒は沢山の素材を持参するが、人工物が多い傾向がある。そこで、校庭に行き、自然物の素材を中心に集める。素材の選択の幅が増えることで、発想が広がる。

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教室に戻り、OHPを使い簡単な影当てクイズを行う。

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写す角度で印象が異なること、透明な素材、金属の素材、影の重ね方等の写り方を確認する。

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生徒の記録ノートから
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3時間目:コピアートに慣れよう!エクササイズ②『風撮kazetori』

3時間目の主なねらいは、教室内での光と、外の光の強さの違いによって得られる効果を学ぶこと。
普段はじっくり見ることが少ない野外の影を観察すること。

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3時間の授業を終え、次から3時間を使い、いよいよ「私の世界」の制作に入る事を伝える。

アイデアシートを配布し、作品のアイデアを練ることを宿題とした。


4時間目~6時間目「影で描こう私の世界」制作(3時間)

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生徒自身が主体的に制作が出来る環境をつくるために以下の工夫をした。

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①自己評価シート、アイデアシート、フォトグラムデータシートの活用

自己評価シートは、1時間の生徒の活動を把握するために用いる。

アイデアシートは、自分が制作する「私の世界」をどう制作していくかを確認するために用いる。

フォトグラムデータシートは、撮影した場所と、撮影時間、光の量(天気等)などのデータをメモし、自分の作品に適切な露光を出来るために用いる。

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②生徒の活動導線計画

素材置き場、スポットライト・蛍光灯などで意図的に光をつくりだせるライトスペースは生徒が集まりやすいので広いスペースをとる。

OHPで随時、素材の写り方、撮影する画面の構成を確認できるようにした。

撮影し、現像した後、作品を床に置き、リアルタイムに生徒間の作品が見られるようにする鑑賞スペースを設けた。

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次に、3人の生徒の作品制作の流れを紹介した。


Aさんの作品制作
―素材の形を生かし見立てを工夫して自分の好きな動物の世界を制作した―

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Bさんの作品制作
―スポットライトで光を操作し、情感のある色合いを工夫した世界観を制作した―

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Cさんの作品制作
―自分の夢である「世界中でダンスをしてみんなを幸せにしたい」をもとに光の効果や背景のぼかし等を工夫し制作した―

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アイデアシートには自分の夢が書かれていて、この夢を作品で叶えてみたいという。

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自分の習っているダンススクールで行ったパフォーマンスの連続写真を持参した。

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お気に入りのポーズを切り出し、スポットライトが当たっているステージをイメージし光を工夫した。

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動きを出すためにブレを意図的につくり出した。
背景に使うビルなどの素材も切り出している。

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5時間目は、4時間目の制作を更に発展させ、動きの違う二つのポーズを同時に画面に入れることを思いついた。

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時間差で2つめのポーズを入れることで、残像感が出た。


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制作の最後の6時間目。友人がたまたまOHPで影を写していて発見した技法(OHPの上層と下層に素材を置くことで意図的にボケの効果を生み出すことが出来る)を取り入れて、背景をぼかした遠近感のある像をつくり出した。


7時間目:作品鑑賞会

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1人1人作品を紹介し、アイデアの生まれ方や作品に込めた工夫点を発表し合った。

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3:「まとめ―課題と展望―」


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 今回、発表をさせていただき、今後の授業の更なる発展のアイデアと、他の題材へ培われた力をどう繋げていけるかを模索できる機会になりました。


発表の終わりに、冒頭で配布させていただいた感光紙をアイロンで現像してお持ち帰りいただきました。

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最後に、発表を聞いていただいた参加者の皆様、日本美術教育連盟夏期研究会実行委員長の三澤先生をはじめ、事務局長の西尾先生、実行委員としてサポートして下さった伊藤先生、諸先生方に深く御礼申し上げます。ありがとうございました。今後とも、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。




以下の関連リンクでは、これまでの感光紙を用いた活動のレポート等を掲載しています。
ご参照下さい。


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また、2012年11月8日(木)、9日(金)に開催される「第52回関東甲信越静地区造形教育研究大会」でも提案をさせていただく予定です。どうぞよろしくお願いします。
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●関連リンク

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by shunya-asami | 2012-08-30 17:00 | 美術教育の現場実践 | Trackback | Comments(0)
「影で描こう私の世界」―コピアートペーパーを用いた写真表現の授業実践(中学校題材)「教育美術掲載」
 美術教育の雑誌「教育美術2011.3月号」にコピアートペーパーを用いた実践を掲載させていただきました。

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財団法人教育美術振興会HP
http://park12.wakwak.com/~kyo-bi/kbcont1103.htm

私のコピアートペーパーを用いた活動は、自身の作品制作から始まり、ワークショップへ展開し、美術科の一授業という形に変化をしてきました。今後さらにこの活動が発展するように相互の視点から追及していきたいと原稿を書きながら改めて実感しました。

貴重な機会をいただいた「教育美術」の担当者様、また原稿を読みご意見をいただけた方に厚く御礼申し上げます。


-------以下は掲載記事-------

●フォトグラムワークショップ関連記事

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by shunya-asami | 2011-03-06 18:29 | 美術教育の現場実践 | Trackback | Comments(2)
学校公開日のお知らせ

本日は、私の勤務校、八潮市立八條中学校の学校公開日のお知らせです。
来る11月7日(土)の学校公開日、美術科では、校内エントランスを八條アートギャラリーとした生徒作品の展示+授業参観があります。

ここでは展示の様子をご紹介します。

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展示風景(突然現れた作品展に下校中の生徒の足が止まる)

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本物そっくりにつくる‐スーパーリアルアート‐
落ち葉を一枚選び、その一枚の特徴を観察しリアルに制作する。

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コピアートペーパーを使った写真実践(影で描こう私の世界)
コメントは県立大宮光稜高校美術部の生徒さんのもの。
美術部の生徒主催のこの展覧会に作品を出品し、ひとつひとつの作品にコメントを寄せてくれた。
先輩のコメントに自分の気がつかなかった作品の魅力や面白さの視点に作品をつくった本人はとても驚いていた。
他人に見られることで広がる作品の拡大した実践となった。
(第3回中学生光稜美術展出品作品)

コピアートの実践の詳細はこちら
http://asaworks.exblog.jp/i11

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全ての授業実践に、授業のねらいや目標を明示したキャプションを掲示。
授業を通しての学びを生徒へはもちろん、保護者、一般来校者、他教科の教員へ明らかにした。



是非皆さまお誘い合わせのうえ、ご来校いただければ幸いです。



埼玉県八潮市立八條中学校
〒340-0801 埼玉県八潮市八條555番地
http://www.yashio-hachijo-jh.ed.jp/


 浅見俊哉
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by shunya-asami | 2009-11-02 22:25 | 美術教育の現場実践 | Trackback | Comments(0)



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